「考える」「理解する」世界史教科書という点に重点をおいた
「何のために世界史を学ぶのか」という問いにはさまざまな答があるでしょうが,正面から答えるならば,「私たちが生きているこの世界の成り立ちを理解し,広い視野から物事を判断できるようになるため」ということができるでしょう。本書は,次の時代を担うべき高校生の皆さんの世界史学習の意欲にまっすぐに応え,細かい知識よりも骨太な世界史の流れを,そして今日につながる諸問題の歴史的背景を理解していただくため,執筆陣が協力して作成した新しい世界史の教科書です。
本書の内容は,高校の世界史教科書としては,かなり詳しいほうだといえるでしょう。しかし本書の目的は,多数の人名や事項名を列挙して個々に暗記してもらうことではなく,さまざまな事象の意味やその間の脈絡をできるかぎりわかりやすく説明し,理解してもらうことにあります。むしろ,本書を使用する皆さんが,大事だと思う点を自らの頭で確認し,印をつけたり線をひいたりしながら使っていただければ幸いです。
全体の構成は時代順に5部に分かれ,それぞれ「古代」「中世」「近世」「近代」「現代」と表題がついています。時代区分の方法について学界にはさまざまな考え方がありますが,ここでは大きな世界史的変動のあった時期を境に区切り,世界各地の動きの共時性を感じ取っていただくよう配慮しました。そして,各部に付した「テーマ」と「まとめ」において,世界全体を見渡した問題の提示と解説・設問をおこない,各部の重要問題を,諸地域相互の関連
と比較のもとに整理して把握できるように工夫しました。
そのほか,本書の大きな特色は,世界史を学ぶうえでポイントとなる重要な事項や概念についてのより深い理解をめざし,「解説」を設けてかなり詳しい説明をおこなっている点です。現代の世界のあり方にも深くかかわる問題を含んだ事項も多数あります。少し難しいと思われる内容でも,地理や日本史,政治・経済などとも関連させつつ学習することによって,日常接するニュースの背景や,現在当然だと思われている事象の成り立ちが歴史的な奥行きをもって把握でき,立体的な世界像の形成に寄与しうるものと期待しています。
以上,「考える」「理解する」世界史教科書という点に重点をおいた本書の意図をご了解いただき,その特色を活用して授業・学習をおこなっていただくことを願っています。