中国倫理思想の考え方

価格
1,980円 (税込)
在庫: 在庫あり
解説: 孔子がつくり、孟子・荀子らが育てた儒教の倫理思想は歴代王朝の「国教」となって、中国の人間関係や社会秩序を強く規定してきた。その形成と展開について概説し、理想と現実を浮き彫りにする。
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倫理という語は中国で生まれ、その思想とあわせて日本にも伝わった。私たちはいつのまにか、英語のethicsを倫理と訳すことに慣れてしまったけれど、ethicsのイメージに寄りかかっているかぎり、漢語としての「倫理」は正体をあらわしてくれない。
中国の倫理思想は、儒教によって代表される。孔子がつくりだし、孟子・荀子などが育てた儒教の倫理思想は、やがて歴代王朝の「国教」となり、中国の人間関係や社会秩序を二千年あまりにわたって強く規定した。彼らは具体的に、どのような倫理を求めたのだろうか? 人と人の正しいつながりを、どうすれば実践できると考えたのだろうか? そして何よりも、儒教の倫理思想は皆を幸せにしたと言えるのだろうか?
本書では、春秋時代に始まる儒教の倫理思想が、前漢・後漢でひとまずの完成形にいたったところまでと、南宋の朱熹(朱子)、明の王守仁(王陽明)による新たな展開に重点をおき、その理論的な歩みと、それが社会にもたらした影響についてわかりやすくお話しする。論理が整わずにおわった部分や、負の遺産と呼ぶべきものごとにも忌憚なく触れよう。中国で語られた倫理の思想を、さまざまな角度から冷静にみつめていただきたいと思う。
ISBN:
978-4-634-64096-2
著者: 水口拓寿 
刊行:
2022年1月
仕様: B6変(120×182㎜)  ・  260ページ
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目次:
はじめに                            
倫理と漢字で書けば/倫理はethicsと同じか/本書のねらい/大きい中国と小さい中国/内中国で語られた倫理思想
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第一章  倫理を語ったのは誰か                 
天と人/宗族制と封建制/世界観の原像/西周時代から東周時代へ/思想家の誕生/孔子――最初の思想家/倫理思想の始まり/倫理と法と慣習/聖人がつくった倫理/詩・書・礼・楽/儒家と墨家・法家・道家/儒家思想の展開/「儒教の国教化」とその結果/経学というあり方
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コラム   諸子百家は「儒家とそれ以外」のライヴァル関係  
      経典〈けいてん〉と経典〈きょうてん〉  

第二章  儒教の倫理として何が求められたか           
二つの群からなる倫理/孝――宗族内部の倫理①/弟(悌)――宗族内部の倫理②/仁――社会一般の倫理①/孝・悌と仁の接続/義――社会一般の倫理②/義の存在価値/忠と信――社会一般の倫理③/知(智)――倫理を正しいと自覚できること/四徳と五常/恥の意識――倫理に背かないために/「名を正す」ということ/倫理思想の不平等な性格/人は名の多面体として生きる/忠の変質/孝と忠の新しい接続/『孝経』から『大学』へ/孝は「仁の本」か「仁を為すの本」か/朱子学と風水/朱子学から陽明学へ
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コラム   諱を避けるということ  
      貴族の儒教から官僚の儒教へ  

第三章  儒教の倫理は何によって表現されたか           
『論語』の言葉から/礼と楽――倫理を表現する二つの手段/「礼儀三百、威儀三千」/礼の精神性を唱えた孔子/喪に服する期間にも格差が/「克己復礼」と仁の関係/形式よりも倫理を優先した孟子/節度と秩序を重んじた荀子/『孝経』における喪礼の重視/儒教の国教化と礼学の確立/礼は時代につれて変化する/私礼というジャンルの書物/死者や祖先との付き合い方/徳治と礼治/公的な教化と私的な教化/「修己」から「治人」へ/街いっぱいの聖人たち/礼と法のコラボレーション/「礼に立ち、楽に成る」/楽もまた教化のために
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コラム   聖人に列せられた孔子  
      音楽家、江文也の願い    
第四章  儒教の倫理思想はなぜ正しいとされたか         
倫理思想としての正当性と普遍性/楽天的に構えた孔子とその弟子/戦国時代を迎えて/性善説を唱えた孟子/性善説の根拠はどこに/『孝経』『中庸』による性善説の整備/性悪説を唱えた荀子/性悪説は人類への悲観ではない/性悪説の根拠はどこに/儒教の国教化と性三品説の台頭/孟子から韓愈へ、韓愈から朱熹へ/朱子学の性善説/本然之性と気質之性/そして陽明学の性善説へ/陽明学の性善説も経典に典拠を求めた/「儒教は正しい」が疑われなくなったとき/天とは結局何だったのか/儒教の倫理を拒む「自由」とその代償
読書案内  
コラム   革命は誰のために  
      孔子廟から追い出されても  

第五章  儒教の倫理思想は皆の幸せをめざしたか         
それは不幸の自覚から生まれた/倫理思想の理想と現実?/男尊女卑と女性の閉じ込め/民は本当に教化できるのか/夷狄というポジション/冊封から攘夷へ/頭ごなしの抑圧と疎外/「不孝」な人生設計への不寛容/禽獣と呼ばれた論敵たち/倫理の実践が過熱する危険性/儒教の倫理思想は誰の幸せをめざしたか
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コラム   墨家の倫理思想  
      楊子――もう一人の「禽獣」 
      儒教の倫理思想と道教・仏教 

おわりに                           
本書で扱った時代の範囲/考証学から新儒家まで/国家と儒教の近現代史①/国家と儒教の近現代史②/皆さんに願うこと